アミヤ さま

アミヤさまの口コミ

5 / 5素晴らしい!

あらためて運慶の卓越した造形力と、その作品が放つ静かな迫力に圧倒されました。

とくに心を奪われたのが、教科書等で見たことのある、インドの実在の高僧・無著と世親の像です。インド人を実際に見る機会のなかった時代に、日本人をモデルにしながらも、まるでそこに実在する人物に対面しているかのような錯覚を覚えるほどの存在感がありました。写実的であるだけでなく、人物の内面や精神性まで形にしたかのような深みがあり、像の前に立つと、静かな眼差しで語りかけられているようにも感じられます。

さらに、像には彩色の痕跡が遺されており、当時はもっと鮮やかで、生き生きとした姿で人々の前に現れていたのではないかと思いました。失われた色彩を想像することで、より一層、当時の信仰空間の息づかいが立ち上ってくるようでした。

四方に配置された四天王像もまた印象的です。奈良時代の古式にならいながらも、筋肉の張りや衣の翻りには躍動感があふれており、堂内を守護する神々の力強さがひしひしと伝わってきました。威厳と迫力に満ちつつ、その造形にはどこか人間味も感じられ、存在そのものが空間を引き締めています。

会場全体に漂う厳かな空気の中で、運慶という彫刻家が祈りを託した「北円堂の世界」を追体験できたことは、非常に貴重な時間となりました。作品一つひとつに宿る祈りの温度まで伝わってくるような、深い余韻を残す展覧会でした。

特別展「運慶 祈りの空間ー興福寺北円堂」(東京国立博物館 本館 特別5室)の新着口コミ