シミュレーターで何度もホバリングに挑戦しましたが、これが本当に難しい。しかし、この至難の業こそがヘリコプター最大の利点であり、それを活かして人命を救っているのがドクターヘリです。

その航空緊急医療の現場で昨今、痛ましい事故がありました。事故後の記者会見の光景には、目を疑いました。まるでシルバー人材センターかと見紛うようなご高齢の経営陣…。これが、日々私たちの命を預かるドクターヘリ運航業界の現実なのかと、心が締め付けられる思いでした。

調べてみると、ドクターヘリの運航会社のほとんどは中小企業です。限られた経営資源のなか、現場の方々が最大限の努力で私たちの空の安全を支えてくれている現実に、改めて頭が下がります。

深刻な人材不足と厳しい経営。このシミュレーターは、そうした現実への理解を深める貴重な機会です。ドクターヘリが１人の命を救えば、数千万円の経済損失が防がれ、損害保険会社の保険金支払いも抑制されます。その恩恵を受ける損保会社は、運航会社の脆弱な経営基盤を支えるため、もっと資金を拠出する社会的責任があるはずです。

このVR体験は、博物館の一施設に留まらず、空の上の救命活動を「他人事」から「自分事」として捉え直し、社会全体でこのインフラをどう支えるべきか、真剣に考えるきっかけを与えてくれました。