東京都美術館開館100周年記念 アンドリュー・ワイエス展の口コミ

5 / 5素晴らしい!
東京都美術館で開催中の「アンドリュー・ワイエス展」に行ってきました。没後初の大規模な回顧展ということで、非常に見応えのある素晴らしい展覧会でした。
今回のテーマは「境界」。作品にたびたび登場する窓やドア、そして美しい氷塊といったモチーフから、静寂や孤独、どこか死を受容するような現代的な「ヴァニタス(人生の空しさや死への想い)」の雰囲気が画面全体から漂ってきます。
特に印象的だったのは、水彩やドライブラッシュ、そしてテンペラという技法の凄みです。テンペラ独特の光の反射や、水墨画を思わせる微細な描き込みは圧倒的な写実力ですが、単なる再現にとどまらない、素朴で象徴主義的な独特の香りが魅力的でした。個人的には、視点や構図の選び方が非常にモダンでおしゃれだと感じます。
また、人物そのものを描くのではなく、その人がいた環境や静物を描くことで、かえってその人の人生や経験を想起させる「モデル不在」の手法には深く唸らされました。名作「オルソン・ハウス」の一連の作品からも、時代に取り残されていく家と住人の歴史を、文化的なまなざしで残そうとする画家の強い使命感が伝わってきます。
劇的な抽象絵画やポップアート(ポロックやウォーホルなど)が席巻した同時代のアメリカにおいて、あえてこの静謐な写実主義を貫き通したワイエス。裕福な芸術家一族(お父様は『宝島』の挿絵画家、お兄様はなんとペットボトルのPET開発者だそうです!)に生まれ、若くして才能を認められた彼だからこそ、身近な何気ないモチーフを生涯かけて見つめ続けることができたのかもしれません。
ハンマスホイのようなモノクロームの静けさや、クールベのような大自然への畏敬の念をも感じさせる、静かで尊い時間に浸れる至高の展覧会です。美術ファンの方にはぜひおすすめしたいです。

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