サントリー美術館で注目の企画展情報やカフェ&ショップを徹底取材【2021年版】

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第4章『ばらばらする』

本来一体だったものを離れて並べると何を感じるか? この章では、本体と蓋といった、セットで成り立つ美術品をあえて分けることで、形状や技法の意味を意識的に観賞する楽しさを教えてくれます。

例えば、ぐるぐる模様の小さな部品らしきものは何でしょうか? ボタンのような突起がついていますが……。

反対側に回ってみると、ポットのような「水注」(すいちゅう)の『色絵巻子形水注』の本体が現れました。先ほどの部品は蓋というわけ。江戸時代後期から明治初期にかけて薩摩(九州南部)で作られたものですが、注ぎ口は中国の想像上の水鳥の鷁(ゲキ)がモチーフとなっているそうです。

『色絵巻子形水注 薩摩 一合 江戸~明治時代 19世紀』(サントリー美術館蔵)

同時に見れば、絵巻物に見立てた本体と、巻物の軸を象った蓋であるとわかります。中国・明時代の白磁をお手本にしたと考えられていますが、日本古典文学の傑作・源氏物語の絵巻物に置き換えたアイデアには脱帽です。
 

第5章『はこはこする』

作品たちは展示室を離れると、布団のような緩衝材に包まれ箱の中に大切に収納され次の展示を待ちます。この章では、表舞台には登場しない箱をフィーチャー。箱には中身の価値を左右するほど重要な文字が書かれることもあり、なかには美術品以上の装飾が施されたものもあるのだとか。

『国宝 浮線綾螺鈿蒔絵手箱 一合 鎌倉時代 13世紀 およびその箱』(サントリー美術館蔵)

『浮線綾螺鈿蒔絵手箱』は、鎌倉時代に作られた品。手箱とは文字どおり、お化粧の道具などを入れて手元に置いておくための箱。国宝に指定されているこちらは、敷き詰めた金粉に、オーロラ色の夜光貝の螺鈿細工を施してある豪華な品です。

名品が多いと言われる鎌倉時代の手箱のなかでも、最高傑作と考えられる本品。13世紀に作られたものなので、幾度も収納に使う箱が新調されていますが、現在の箱は、文政2年(1819年)に作られたもの。箱の蓋の裏には「源頼朝の婦人の北条政子が愛玩した」という意味のことが墨で書かれています。

 

第6章『ざわざわする』

「美しいけど難しい」とか「西洋絵画に比べると地味」と思われがちな日本美術ですが、思いのほか心がざわつくような名作も多いのだそうです。

『袋法師絵巻(部分) 一巻 江戸時代 17~18世紀』(サントリー美術館蔵)

色鮮やかな絵巻物の『袋法師絵巻』で描かれているのは、身分の高い女性の寝床。具合が悪そうな女主人が、情を交わした僧侶を赤い袋の中に隠しています。しかしその僧侶はなんとその後、袋に入ったままで他の女性と交わるのだとか。

『袋法師絵巻』は14世紀に成立したとされる絵巻物で、『稚児之草紙』『小柴垣草紙』と並ぶ三大性愛絵巻として知られています。今作は江戸時代の模本ですが、いつの時代も男女の情愛はざわざわを引き起こしてくれます。

左:『美人図 西川祐信 一幅 江戸時代 18世紀』、右:『相思図 石川豊信 二幅 江戸時代 18世紀』(サントリー美術館蔵)

上の写真の右側2つの掛け軸は、江戸時代の浮世絵師・石川豊信が描いた『相思図』。振り袖を着た右の人物は女性に見えますが、刀を差した武家の男性です。左の女性は髪型や服装から未婚の町娘であることがわかります。

向き合った二人の視線を追うだけで心がざわつきます。ですが、男性の頭上に描かれている花が深まる恋心の象徴の牡丹、女性側は逆境に耐える梅だと聞かされると、二人の平坦ではない恋路が想像され、ざわざわが止まらなくなります。

『エピローグ』

多種多様な“ざわざわ”を感じさせてくれた本展もここでおしまい。ベールの向こうになにやら人影のようなものが見えます。

『天部像頭部 一個 平安時代 12世紀』(サントリー美術館蔵)

中には『天部像頭部』の姿が。平安時代後期(12世紀)の作と推測され、首筋に三本の筋があることから仏様であると考えられています。女性とも男性ともとれる輪郭、喜怒哀楽のどれでもない表情は、見る人によって印象が変化します。360度から眺めて、思う存分ざわざわしてはいかがでしょうか。
 

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