【第4回】ボスニアの絶景「スタリモスト石橋」へ

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 クルカ国立公園での撮影を終えて、スプリトの宿に向かいます。高速道路を使えば約1時間の距離ですが、アドリア海を見たくなり、遠回りですが海沿いの道を通ることにしました。

 海に出るためには再びシベニクの街を通過します。もともと立ち寄る予定のなかった街ですが、3回も通ると懐かしさも感じます。次回は収入印紙を買う目的ではなく、しっかり街歩きをしたいと思います。この海沿いの道は国道8号線で、クロアチアの中でも屈指の景観が続く道です。シベニクを通過してしばらくすると、海に突き出た小さな丘を覆う美しい街並みが見えてきました。

 

 

プリモシュテンに到着

 立ち寄る予定のなかった街ですが、次回以降の撮影のために下見をすることにしました。しかし小さな街だけに、ありとあらゆる道に車がとめられており、公共の駐車場も満車です。

 街から少し離れた道に公共の駐車スペースがあり、車をとめられたのですが、街まではかなり距離があるのと、西日の逆光が強すぎて良い写真がとれない可能性が高いことから、今回は街の様子が分かる写真を少し撮影して撤収することにしました。

ここも天国ような景観ですが、強い逆光でうまく撮れません

 ここはプリモシュテンという街で、最初は最近出来た埋め立て地かと思ったのですが、中央の教会は1485年に建てられた歴史的な建造物で、クロアチアでも著名な観光地だそうです。次回は順光の時間帯に訪れたいと思います。

 

スプリトに到着

 海岸沿いの美しい街並みを眺めながらスプリトに向かい、19時に到着しました。ぎりぎり夕焼けに間に合いそうなので、事前に調べておいたマルヤンの丘という撮影スポットを目指して街の西側に向かい、駐車場に車をとめました。

 駐車場から徒歩10分程度でマルヤンの丘に到着しましたが、すでに多くの観光客で賑わっていました。マルヤンの丘からはスプリトの世界遺産ディオクレティアヌス宮殿を中心とした旧市街のエリアがよく見えます。

 しかしこの丘からは広角の写真を撮ろうとすると、どうしても手前の木々が構図の中に入ってきてしまいます。色々と構図を練っている間に街が夕焼けで色づいてきました。

 覚悟を決めて構図を確定し、レンズを交換しながらスプリトの街並みを撮影しました。あたりの色が変わり始めると、そこから日没までは本当に僅かな時間しかありません。

上:日没直前にスプリトの街が夕日の色に染まっていく
中:聖ドムニウス大聖堂にある鐘楼がスプリトのシンボル
下:スプリトの港には世界中から豪華客船が停泊する

 撮影を終えてしばらく経つと、ブルーアワーの時間帯になりました。異なる美しさのスプリトを撮影できそうですが、この時はホテルに辿り着くことを優先することに。ヨーロッパの旧市街エリアのホテルは入り組んだところにあることが多く、真っ暗になると探すことが困難になることがあるからです。

 駐車場まで駆け足で戻り、車に乗ってスプリトに中心部に移動。宿泊するValenti roomsがあるエリアに着きました。しかし車から確認する限り、Valenti roomsの看板は全く見当たらず、そもそもホテルがあるようにも見えませんでした。

 ホテルのあるブロックを3周している間に、恐れていた夜がやってきてしまいました。外は真っ暗になってしまい、焦りを感じてホテルのあるブロックの駐車場にとめて、近くにあったオープンテラスのバーで道を聞くことにしました。しかし誰もValenti roomsの名前をいっても、知る人はいません。

 そこでValenti roomsに電話しようとしたところ、私の方に向かってくる男性がいました。なんとその方がValenti roomsのオーナーさんで、そろそろ着く頃じゃないかと思っていたとのこと。たしかに予約サイトで到着時間を入力しておいたのですが、ほぼその時間だったので、迎えにきてくれたようです。

 Valenti roomsの入り口はマンションのようなビルで囲まれたエリア内のビルの上にあり、事前に知らない限りは絶対に入っていかないような場所でした。車ではなく、徒歩できていたとしても気付かない場所です。

 ビルで囲まれたエリアは駐車場になっており、スペースも十分で車はとめやすかったです。エリアの一番奥に消防署のような施設があり、その隣の細長いビルの中にホテルがあるようです。ホテルの入っているビルに入ると真っ暗。

怖そうに見えるが駐車はとても楽

 オーナーが電気をつけると、かなり上まで続く階段が現れましたが、エレベーターはありませんでした。有り難いことにオーナーさんがスーツケースを持ってくれたので、私はレンズセットを背負うだけですみました。

 ようやくValenti roomsのあるフロアに到着をして、ドアをあけるとびっくり。まだ出来たてだそうで、とても現代的で美しいインテリアの通路とお部屋でした。外見は古くても、内装は綺麗なホテルはヨーロッパには沢山あります。

上:東京の時計もあり不思議な安心感
左下:部屋は寝具も含めて最上級。広くはないが私には十分すぎる
右下:水回りも美しい。ホットシャワーもきちんと出た。

 今日も一泊しかしないので、荷物の展開もほどほどに、クルカ国立公園の写真データのバックアップとカメラの電池の充電をセットして、夕食をとりに旧市街に出かけることにしました。

 Valenti roomsを出たのはちょうど午後9時くらいで、旧市街には徒歩10分で到着しました。ホテルから数分程度は日本人の感覚だと暗いと感じる道が続いていましたが、車の通りも多く、広い道なので不安はありませんでした。

レストラン近くの海沿いの通りも活気で溢れています

 レストランはホテルで探しておいたNoStress bistroという旧市街の中心部のあるところ選びました。観光客からの評価も高く、価格帯もリーズナブルだったのが決め手です。

 お店に入ると、私が日本人だと分かったのかすぐにポケモンGoの話をしてきました。ディオクレティアヌス宮殿近くのジムを占拠する地元民のグループがあるらしく、彼とその仲間は討伐隊を組んで日々攻撃をしかけているそうな。日本人だったら強いポケモンをもっているだろうと思っているらしく、私の所有リストを見せたところ「俺の持っているアイテムは全部使ってくれ!」といって、ポケモンGoを起動したスマホを私のテーブルにおきました。

 食事後に自分もジムに行ってみると伝えると、とても喜んでメニューについて詳しく説明してくれました。その結果、おいしいワインとパスタ、そして大好物のティラミスを食べることができました。

左:トリュフソースのパスタに舌つづみ
右上:スプリト1と自慢するお勧めのティラミスは確かに美味
右下:締めはやはりエスプレッソ

 

 今回の撮影の旅は移動が多いため慌ただしく、地元の人と話す機会も少なかったのですが、まさかクロアチアでポケモンGoつながりで会話が弾むとは思ってもいませんでした。

 食事をすませてから、世界遺産に指定されているディオクレティアヌス宮殿を中心とした旧市街を軽く散策することにしました。旧市街のライトアップも美しく、こちらもゆっくり滞在したら楽しそうだと感じました。

 明日はボスニアに向かわなければならないので、散策を切り上げてValenti roomsに戻りました。スプリトはとてもコンパクトにまとまっており、マルヤン広場と旧市街、旧市街とホテルはそれぞれ10分程度で行き来でき、車は不要です。ホテルの件数も多いので、クロアチアの中部を旅行する場合は拠点として活用しやすい街でしょう。

ホテルへの帰り道。夜10時とは思えないくらい街は賑やか。

 Valenti roomsに戻ってカメラとレンズのクリーニングをして、お風呂に入り就寝。と、いきたいところですが、大事な確認事項があります。明日はボスニアに行きますが、ボスニアではT-Mobile社のSIMカードは使えないようです。

 国境でSIMカードが買えればいいのですが、少し調べた範囲では情報が少なくリスクが高いように感じました。ボスニアは日帰りで、クロアチアの国境を越えてモスタルまでの道はそれほど複雑ではないようだったので、今回は公衆回線を使わずGPS信号だけを頼ったナビゲーションでボスニアを移動することにしました。この場合、スマートフォンの中にボスニアの地図データだけは事前にダウンロードをしておく必要があります。Google Mapsの場合は以下の方法でダウンロードが可能です。

ダウンロードしたエリアをオフラインで見る

 ダウンロードするエリアの広さや複雑さによって地図データは1GBを越える容量になることも多いので、私は日本で事前にダウンロードしておきましたが、ホテルのWi-Fi回線を使ってダウンロードすることも可能です。最悪T-Mobileの公衆回線を使ってダウンロードすることも可能ですが、残りの通信可能データ量を大きく削ることになるのでお勧めしません。ヨーロッパに限らずホテルのWi-Fi回線の多くはとても速度が遅く不安定です。地図データをダウンロードしようと思っても、一晩のうちにダウンロードが完了しない場合もありますから、旅先で訪れる可能性のあるエリアについては日本にいるうちに必ず地図データをダウンロードしておきましょう。

 寝る前にボスニアの地図データがダウンロードされていることを再確認して、安心して寝ることにしました。

 

五日目

 朝8時に起床し、荷造りを終えてチェックアウト。ボスニアに直接向かう予定でしたが、昨晩訪れた旧市街が美しかったので、出発前に撮影しておくことにしました。

 旧市街を撮影するにあたってはマルヤンの丘からは手前の木々が入ってしまうことが分かっているので、狙いをディオクレティアヌス宮殿の中にある聖ドムニウス大聖堂の鐘楼に。鐘楼から撮影する場合は午前であれば順光となるため、タイミングとしても悪くないと考えたのです。

 スーツケースをフロントに預けて、レンズセットを背負って旧市街に向かいます。10分程度で旧市街にあるディオクレティアヌス宮殿に到着し、大聖堂にある鐘楼の一階でチケットを購入します。鐘楼だけであれば25クーナ(約500円程度)で、宮殿全体の博物館に入るセットチケットもあります。

宮殿の前は時期によってはチケットを買う行列ができる

 なぜ「宮殿」の中に「大聖堂」があるのだろうと思ったのですが、ディオクレティアヌス帝はキリスト教を迫害した君主で、7世紀頃にその恨みから霊廟を破壊されて、聖堂に改造されたそうです。「聖ドムニウス」というのは名前のとおりキリスト教の聖人で、スプリトの守護聖人とのこと。ヨーロッパに限ったことではないですが、現代まで残っているような圧倒的なスケールの建築物の裏側には、宗教関連の怖い話が潜んでいることが多くあります。私の撮影スタイルは、そうした歴史的な暗い背景は尊重しつつも、撮影時にはいったん忘れて、ファインダーの中に映し出される「いま」そこにある映像の美しさを記録することに集中するようにしています。

 鐘楼にエレベーターはなく、私の嫌いな階段でしか登れません。高さは60メートルで段数は173段。ただ建物の中なので、日陰の中で登ることになるので、結果的に身体的な負担は気にするほどでもありませんでした。

 

美しい石造りの鐘楼の高さは60メートル

 

 鐘楼の最上階は展望台になっており、スプリトの街並みを360度見渡せます。昨夕に行ったマルヤンの丘がある西側を向くた構図が最もバランスがよさそうで、入れたいものを入れて、不要なものを入れない構図の焦点距離は19mmでした。

緑の山の左下あたりがマルヤンの丘。鐘楼から撮影しているので鐘楼が入らないのが残念

 

 この日の天気は私が苦手な雲一つない「ピーカン(撮影用語)」でした。詳しい話は改めてしようと思いますが、ピーカンが苦手な理由は二つあります。一つは空に表情が出ないこと。もう一つは私の好きな広角でPLフィルターを使うと空に色ムラが出てしまうからです。

空にムラができてしまっています

 

 とはいえ、アドリア海沿いの街並みはオレンジ色の屋根の色が特徴的で、PLフィルターを使わないと本来の美しい色がくすんでしまいます。そんな中で試行錯誤をしながら、何枚か使えそうな写真をとったところで、修学旅行の団体がのぼってきたので撤収することにしました。

奧にディオクレティアヌス宮殿の城壁が見えます

 地上に戻り、喉が渇いてきたので目の前にあったKavana Luxor Splitという世界遺産のど真ん中にあるすごいカフェでカフェラテを頂きました。間違ってホットを頼んでしまったので、さらに体が温まってしまいましたが、とても美味しかったです。

上:ケーキセットでチーズケーキもつけて貰いました
下:世界遺産のど真ん中の席です

 

 ホテルへ戻る途中に、とても有名なお塩が売っているA1 REFILLというお店があることを思い出し、立ち寄りました。クロアチアはお塩のレベルが高く、その中でもニンという地域のフラワーソフトの評価が最も高くなっています。

可愛らしいお店には食塩だけではなくバスソルトなども充実

 

 ニンのフラワーソルトは通販でも購入できますが、日本からだと送料がかかるので、A1 REFILLで買っておくことにしました。何の料理に使っても美味しいですが、私はトンカツや天ぷらにつけるのが好みです。

 さてValenti roomsに戻ってスーツケースを受け取り、いよいよボスニアに出発します。昨晩に到着した時には不安を感じたホテルでしたが、こうして日中に改めて見てみると閑静な場所にあり、駐車場もとめやすく、一度覚えてしまえば色々と快適なホテルです。価格も安いので人気が出るでしょう。次回スプリトに訪れることがあったら、また泊まりたいと思います。

 

 

 ナビゲーションによればこの駐車場からボスニアの街「モスタル」までは約160キロの道のりで、2時間あれば到着できそうです。出発から1時間ほどで高速道路を抜けて、クロアチアとボスニアの国境に到着します。

 ヨーロッパは国境管理が強化されており、通過に時間がかかる事が多く、連載の1回目や2回目でもクロアチア・スロベニア間の国境越えに時間がかかったことを書いていました。しかしクロアチア・ボスニア間の国境はそこまで混雑しておらず、そこまで待ち時間なく通過できました。ただ反対側車線、つまりボスニアからクロアチアに入る方は混雑しているようでした。

 国境をこえると、いよいよ心理的に大きな影響のあることがおきます。そう、公衆回線の電波が入らなくなるのです。国境を通過してすぐのところまではT-Mobileの電波が届いていましたが、すぐに回線なしの状態になり、GPSのみの測位に切り替わりました。地図をダウンロードしておいてよかったです。 GPSのみの測位状態になっているGoogle Mapsのナビにたよりながら、約1時間のドライブでモスタルに到着します。途中の街並みはやはりクロアチアとは異なり、一つか二つ前の時代の雰囲気の建物が多かったように感じました。

 お天気の良い日中ということもあったのか、治安の悪さも含めて不安な感じはせず、道路も十分に整備されており運転に全く支障はありませんでした。街に入る直前は登山道があり、若干入り組んだ道もありましたが、そこも一本道なので迷うことはなく辿り着くことができました。ボスニアというと日本だとまだ戦争のイメージが強いと思いますが、今では世界中から観光客が訪れており、クロアチア発のツアーも数多くあります。雰囲気としてはどちらかといえばクロアチアよりもイスラム圏のトルコに近いかもしれません。

 モスタルの街に入ると通過してきた街並みとは異なり、車通りが増えてクロアチアの中心的な都市と同じような活力ある賑わいを感じます。世界遺産に指定された石橋を目当てに、世界中から観光客が集まってきたおかげなのだと思います。

上:路肩には駐車中の車でびっしり
下:ショッピングセンターもありました

 それでもちょっと古い建物をよく見てみると明らかに銃撃のあとと思われる穴が多数あいており、この地域に住む人々にとっては戦争はちょっと前の事のように感じられているのかもしれません。

上:壁には銃撃戦の爪痕が残ります
下:奧の建物にも戦争の跡がありました

 駐車場を探していると、街のところどころに青いPマークがあり、私は空いていた地下の駐車場にとめることにしました。地下だと車の中が暑くならないという利点があります。撮影から戻って車の中が灼熱状態だと冷房をきかせる時間が必要になるため、地味に時間をとられます。

 係の方から手書きかつ手切りの駐車チケットを貰って、いよいよモスタルの中心部に向かいます。こういう手書きのチケットの場合は、書かれている時刻が正しいか、時間制であれば、システムがどうなっているかは絶対に確認するようにしましょう。私はチケットをなくした時に備えて、チケットをスマートフォンのカメラで撮影しておくことにしてあります。この時にスタッフの方にわざと撮影していることが分かるようにしておき、戻ってきた時には撮影した写真と一緒にチケットを渡すと、ぼったくられる危険が減ります。もちろん万が一チケットを紛失したときにも役立ちます。

 モスタルの名所は世界遺産になっているスタリモスト橋です。1993年の内戦で破壊され、その後世界中からの寄付によって今世紀に入ってようやく再建されました。

 内戦時にはこのスタリモスト橋が民族を分かつ国境のような存在になっており、実のところいまでもわだかまりが残っていると聞きましたが、この橋が世界中から観光客を呼び、街を盛り上げて、民族対立のわだかまりを解く友好の橋となることを願って再建されたそうです。

上:橋の上は遠くからみても観光客でごった返しているのがわかる
下:実際に橋の上は大混雑。しかし地元民から見ればこれも平和な光景。

 

 一通り橋の回りを散策し、イスラム教の施設であるコスキ・メフメド・パシャ・モスクのミナレット(尖塔)からの構図が最も美しいと判断し、モスクに向かいました。モスクに入るには入場料が必要ですが、7ユーロ程度なので躊躇なくお支払いして、モスクに入ります。

中央にある建物がモスクとミナレット

 

 モスクの中はイスラミックな装飾で美しいです。ミナレットの展望スペースにつながる階段を見つけてのぼり、数分程度で展望スペースに出ます。

 

小規模ながらもイスタンブールのスルタンアフメト・モスクを思い出しました。

 

 ここからスタリモスト橋を俯瞰でき、かつモスタルの街並みと周辺の自然が全て収まる完璧な構図の写真を撮ることができました。

カメラ:ソニー α7R II
レンズ:ソニー Vario-Tessar T* FE 16-35mm F4 ZA OSS
フィルター:CPLフィルター 

 

 本当に美しい景観なのですが、この場所を訪れる方のためにどうしても伝えておかなければならないことがあります。

 階段を上ってきてこの展望スペースに出るための出入り口の高さがとても低く、構造的にかなり高い確率で頭がぶつかるようになっています。初見の私も強打して、旅行中もずっとたんこぶができていましたが、私の後からのぼってきた人も8割くらいの確率でぶつけていました。

 スキンヘッドの方は特に強打したようで、「アウチッ!!!!」という悲鳴を出して、頭を抱えて出血。彼もフォトグラファーだったようで、流血を拭いながらファインダーをのぞく姿は、まさに漢(おとこ)でした。撮影中もずっと顔面から床に血がたれていたので、「大丈夫ですか?」と聞くと、「ありがとう!ひどい頭痛がするけど、彼がもうすぐ飛び込むんだ」とのこと。

 そう、スタリモスト石橋名物の飛び込みが見られるのです。だいたい1時間に一回飛び込みがあるようですが、運が良いことにまもなく飛び込みがあるようです。急いで4K動画の撮影モードに切り替えました。

 この展望スペースは構図としては最高だったのですが、この日は非常に風が強く、携行した旅行用の三脚ではブレを拾ってしまい困りました。写真であれば風が弱まった瞬間に撮影することができるのですが、動画の場合はそうした工夫ができません。

 手持ちの荷物を全て三脚にぶら下げて、重量を増し、自分が風上に立つことで、風の影響を最小にしながら、その時を待ちました。しかし、なかなか飛び込んでくれません。双眼鏡で橋の上をのぞいてみたところ、どうやら観光客の心付けが少ないようで、一定額まで達するのを待っていたようです。

そして、その瞬間を収めました。

(飛び込みの瞬間は1分49秒ごろ)

 風が強く全体的にカメラが揺れてしまっていますが、飛び込みの瞬間はうまく風が収まってくれたようです。橋の真下はかなり深くなっているらしく、技術のある人であれば飛び込んでも問題無いようですが、地元民もここから飛び降りるのは文字通りハードルが高いらしく、橋の下にある少し小さな飛び込み台から練習を始めるそうです。

中央から少し左に見えるのが小さな飛び込み台

 

 後日テレビで見たのですが、このお兄さんは飛び込みを通じて観光客を増やして、この街を盛り上げて、結果的に友好に貢献したいとのこと。この飛び込みは石橋に付加価値を与えており、飛び込みのお兄さんは間違いなく平和貢献していると言えそうです。

 無事に満足のいく写真と動画がとれたので滴り落ちた血液をティッシュでスキンヘッドの漢と一緒に掃除して、機材を撤収しました。そして、石橋に立ち寄って川から戻ってきた飛び込みのお兄さんに心付けをして、出店で買ったアイスを食べながら駐車場に戻りました。入り口にいた集金のお兄さんに控えの紙を渡してお支払い。

お兄さんは飛び込みが終わるとここに戻ってきます

 ボスニアの通貨は「兌換マルク(だかんマルク)」と日本では言いますが、現地ではマルクとかマルカで通じることが多いようです。しかし私はマルクは持っていないので、ユーロかクーナで良いか聞くとどちらでも問題無いということでクーナで支払いました。モスタルではマルク、クーナ、ユーロどの通貨でも支払えるところが殆どのようです。

 さて、出発準備が整ったところで、恒例の宿探しです。今回の撮影の旅も残り三日です。三日後の午後にはクロアチアの南端にあるドゥブロヴニクの空港から帰国しなければなりません。残りの撮影ポイントは世界遺産ドゥブロヴニク旧市街とドゥブロヴニクから南に約50キロのところにある隣国モンテネグロの世界遺産コトルの二箇所です。

 位置関係から、明日はコトル旧市街を撮影することとし、宿はあわよくば夜景を撮影することも狙ってドゥブロヴニク旧市街のエリアを第一候補で探してみたのですが、空室は2万円を越えるようなところばかり。

 そこで少し検索する範囲を広げてドゥブロヴニクからレンタカーで約20分先のツァヴタット (Cavtat)という街のホテルを予約しました。一泊8千円程度だったので、予算の範囲内です。ここは帰国する空港のある街で、ドゥブロヴニクよりもコトルには近いので、時短にもつながりそうです。こうした柔軟な宿選びが出来るのもレンタカーの強みです。
 

 ドゥブロヴニクは存在を知ってから10年以上も行きたかった街です。楽しみです。

ボスニア(モスタル・スタリモスト石橋)編・おわり / 旅のメモ

 ボスニアと聞くと戦争をしていて、なんとなく危ない感じがするというのが日本人の平均的なイメージだと思います。ボスニアの戦争は終結しており、銃弾が飛び交っているような地域はもちろんありませんし、戦時後の混沌とした状態もとっくに終わっています。ヨーロッパの中でも治安が良いとも言われています。しかし言われているだけで本当に安全なのだろうかと思う方もいるでしょう。こういう場合に私が参考にしているのは外務省のサイトです。

クロアチアの危険情報

ボスニアの危険情報

 これをみるとクロアチア、ボスニアともに戦争をしていたころの地雷を除去しきれていないエリアが黄色(レベル1)に指定されていることが分かります。そしてモスタルは真っ白です。黄色になっているところも、道路のど真ん中に地雷があることはありませんので、ボスニアは撮影旅行をする分には一般的な海外旅行をする上で気をつけるべきことを気をつけていれば問題のない国だと言えると思います。

 

(写真・文=高江 遊)

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