貴重な絵画を観ながら美術史を旅しよう。「スイス プチ・パレ美術館展」開催

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東京・新宿の「SOMPO美術館」では、7月13日から「スイス プチ・パレ美術館展 印象派からエコール・ド・パリへ」がスタート。実業家・オスカー・ゲーズ氏が収集した作家たちの油彩画65点が一堂に介します。有名作家の作品から同氏ならではの審美眼でコレクションされた画家たちの作品を含むフランス近代絵画の流れが一目瞭然。わずか数十年の期間に「こんなに目まぐるしく描き方が変わるの!?」と驚きの視点で、その変化の歴史を目で楽しめます。

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「スイス プチ・パレ美術館展」とは?

「スイス プチ・パレ美術館展」の会場入り口

「スイス プチ・パレ美術館展」はスイス・ジュネーヴに位置する「プチ・パレ美術館」の所蔵品を紹介する展覧会。19世紀後半から20世紀前半にかけてのフランス近代絵画の流れを目で見て知ることができます。

同館の収蔵品のみで構成される展覧会は日本では実に約30年ぶり。実は創設者・オスカー・ゲーズ氏が逝去した1998年から今まで「プチ・パレ美術館」は休館しており、現地に足を運んでも作品鑑賞が難しい状況が続いています。そんななか、38名の画家の油彩画65点が今回日本にやってきました。オーギュスト・ルノワールやモーリス・ユリトロ、そして藤田嗣治の作品を観られる貴重な機会です。

「SOMPO美術館」は新宿駅から徒歩5分ほど

展覧会が開催される「SOMPO美術館」は新宿駅から徒歩約5分。1976年に日本初の高層階美術館として開館しました。フィンセント・ファン・ゴッホの代表作「ひまわり」(1888年)を所蔵するアジアで唯一の美術館としても有名で、気軽にゴッホの傑作を観られる新宿のアートランドマークなんです。

「スイス プチ・パレ美術館展」をより楽しむための前提知識

1968年に開館した「プチ・パレ美術館」

展覧会の作品を所蔵する「プチ・パレ美術館」は、ゴム製品の製造業で財を成した実業家・オスカー・ゲーズ氏により1968年に創立された美術館。同氏が独自の審美眼で蒐集(しゅうしゅう)した19世紀後半から20世紀前半にかけてのフランス近代絵画を中核としたコレクションが特徴です。同氏は、事業経営を行ないながら骨董品やアートに関心を持っていましたが、1950年代に家族を失ったことがきっかけで本格的にコレクションに力を注ぐように。

モイズ・キスリング「サン=トロペのシエスタ」(1916年)、「赤毛の女」(1929年)など

当初は、モンマルトルの風俗を描いたモーリス・ユトリロやテオフィル=アレキサンドル・スタンランの作品をコレクションしていましたが、関心は新印象主義やフォーヴィスムへ。さらに当時存命中だった藤田嗣治やモイズ・キスリングらエコール・ド・パリの画家たちとも交流を深めていきました。

ユトリロの母であり画家のシュザンヌ・ヴァラドン作の「コントラバスを弾く女」(1908年)、「暴かれた未来、あるいはカード占いの女」(1912年)

オスカー・ゲーズ氏は、事業経営者としての感覚を持ち合わせていたため、有名画家の高額作品を数点買うのではなく、自身が関心を持った画家の作品を比較的入手しやすい価格でまとめて購入。さらに不当に過小評価されていた画家たちにも注目。名声の確立が難しかった女性画家や才能はあるのに知名度の低い画家作品も多く収集し、彼らを世に出すことに努めていました。そのため、本展では、まさにパリが一番華やいだ時代の表と裏をリアリティを持って鑑賞できるのもポイントです。

また、2つの大きな大戦を経験した同氏の視点がコレクションの扱い方に盛り込まれている部分も大きな特徴。1998年より現在まで休館中の同館ですが、同氏の掲げた「平和に奉仕する芸術」というモットーにより、国内外の展覧会に作品を貸し出し。国際平和と相互理解への貢献を行なっています。

「スイス プチ・パレ美術館展」の見どころと展示構成

SNS投稿が可能なフォトスポットもあります

アートや美術史を紐解き知る上で重要な言葉が“美術運動”。ですが、実際のところ「それってなんだろう?」と思う方も多いのでは。

その疑問を解決へ導いてくれるのが「スイス プチ・パレ美術館展」なんです。簡単に説明すると“美術運動”とは、新たな絵画の動向で、特定の哲学や主張など立場が同じアーティストたちが行なう芸術上の運動のこと。19世紀後半から20世紀前半はフランス近代絵画の歴史のなかで新たな芸術動向が短いスパンでどんどん生まれた重要な時期。本展はその流れを追いながら同時期の作品たちを見られます。

関連地図と画家の生没年表などはラストで確認ができます

言葉や歴史年表だけでは、なかなか理解しずらい“美術運動”も作品のタッチや色使いに雰囲気を実際に見ることで理解は進みやすくなるもの。本展では「第1章 印象派」「第2章 新印象派」「第3章 ナビ派とポン=タヴァン派」「第4章 新印象派からフォーヴィズムまで」「第5章 フォーヴィズムからキュビズムまで」「第6章 ポスト印象派とエコール・ド・パリ」の6章に分類し、流れを追っています。早速一部をピックアップしてみましょう。

「第1章 印象派」では、オーギュスト・ルノワール「詩人アリス・ヴァリエール=メルツバッハの肖像」(1913年)やギュスターヴ・カイユボット「子どものモーリス・ユゴーの肖像」(1885年)などを展示

展覧会のスタートは「第1章 印象派」から。19世紀後半のパリでは、伝統的なモチーフや描きかたではなく、自然の風景や日常生活、都市の景色など身近な存在を題材にした作品が登場し、印象派と呼ばれました。絵の具は混ぜずに極力原色に近い色を使い、色彩分割と呼ばれる一つひとつのタッチを並べる技法が特徴です。

「第2章 新印象派」エリア。画家それぞれの点描表現の違いを見るのも面白い

続く「新印象派」は、「印象派」の色彩分割を基本に、細かな点で全体を覆う「点描」と、色彩の対比による視覚的効果を採用。分割主義とも呼ばれ、奥行きはなく平面的な表現が特徴です。科学的理論を応用していましたが、ほかの絵画動向に触れ、より大胆な表現を手に入れていきます。

アルベール・デュボア=ピエ「冬の風景」(1888-1889年)は点描ですが、よく見ると1点1点が盛り上がっていました

とここで、本展担当の学芸員さんに「小中学生や美術初心者でも楽しめる鑑賞方法を教えて!」とリクエスト。すると「印象派から新印象派、さまざまな技法を使った作品があるので描き方の違いをみると面白いですよ!」とアドバイスあり。「特に新印象派は、筆のタッチが良く見えるので注目してみてください。絵の具が厚く盛られていたり、布が編み込まれているかのような作品も。点描ではなく、細長いタッチがたくさん入っていたり、よくみると発見がいっぱいです」と教えてくれました。

「第5章 フォーヴィズムからキュビズムまで」のエリア。ジャン・メッツァンジェ「スフィンクス」(1920年)ほか

3章・4章と続き、後半「第5章 フォーヴィズムからキュビズムまで」へ。空間と量感の表現に画家たちが注目したのが「キュビズム」の時代。多角的な視点から物体を捉え、キャンバスに再現しようと試みた作品といえば、パブロ・ピカソを思い出す人も多いはず。「分析的キュビスムの時期」では黒や灰色に白が中心、「総合的キュビスムの時期」には色彩が復活。現実を引き入れたり、古典に立ち返るなどモチーフを観察するだけでも発見があります。

マリア・ブランシャール「静物」(1917年)、「輪回しをする子ども」(1916-1918年)

なお、芸術運動の流れを追いながらの作品鑑賞の面白さについて、学芸員さんのコメントは以下。

「印象派では、現実に即した写実的な作風が残っていますが、会場を巡っていくと次第に抽象的になったり、色彩も本来の色ではなく鮮やかなものを組み合わたりなど、より自由に描かれていく過程が見えてきます。短いスパンの中でさまざまな、異なるスタイルが次々出てきたのがこの時期の特徴なので、数十年のなかでこんなに印象派から変わったんだ!と変化がとてもわかりやすいはず。そして、ぜひ玄人好みの画家にも本展で興味を持っていただけたら。」

常設展示であるフィンセント・ファン・ゴッホ「ひまわり」も鑑賞できます

なお、ラストには「SOMPO美術館」が所蔵する「スイス プチ・パレ美術館展」に出品している作家・オーギュスト・ルノワールならびに藤田嗣治の作品も展示。さらに常設展示であるフィンセント・ファン・ゴッホ「ひまわり」もじっくりと思う存分鑑賞ができます。

“アートの歴史”を知ればもっと深掘りしたくなる!? お気に入りの技術で絵を描いてみよう

小学生向けにワークシートもあるので、ぜひ鑑賞後に自宅で楽しんでみては

名画との出会いはもちろん、美術が発展しさまざまな表現が生まれてゆく歴史を作品とともに旅できる「スイス プチ・パレ美術館展」。第1章から第6章まで65点の作品を眺めるだけで、変化に富んだフランス近代絵画の歴史を一気に目で理解できます。

組み立てたところ。感想を書くスペースもあります

柔らかなタッチから直線へ、点描から大胆なタッチへ。さらに色の選び方や載せ方に、写実に平面・再構築と、まさに数十年間の中での変化に驚くはず。子どもと一緒にお気に入りの描き方を見つけて、お家に帰って描いてみるのも面白いですよ。なお、同館では「スイス プチ・パレ美術館展」ワークシートも小学生を対象にプレゼント(なくなり次第配布終了)。展覧会の感想を書いたり、工作したりと夏休みの自由研究にぴったり。希望者への配布となるので1階受付で手に入れたい場合はスタッフに声をかけてみましょう。

「スイス プチ・パレ美術館展」における感染症対策

<館内施設・整備>
・スタッフは、検温・手指消毒を徹底し、手袋・マスク等を着用
・館内の換気は適切に実施
・館内の密集を回避するため入場人数調整を行う場合があります
・館内の手すり、ドアノブ、エレベーターボタンなどは定期的に消毒・清掃を実施
・館内の動線に一定の制限を設けておりますので、順路ならびに掲示に従ってください

<来館者へのお願い>
・マスク着用のうえご入館ください
・発熱、咳等の風邪の症状がある方や体調がすぐれない方、過去2週間以内に海外渡航歴のある方は来館をお控えください。
・入口等に、アルコール消毒液を設置しております。手指の消毒にご協力ください
・ご入館時に検温を実施させていただきます
・検温の結果、37.5°C以上の発熱の症状が確認された場合、ご入館をお断りさせていただきます
・ご入館後は1時間以内での鑑賞にご協力をお願いいたします
・館内で体調が悪化した場合は、スタッフまでお申し出ください
・館内では、スタッフや他のお客様との距離をお取りください
・飛沫防止のため、展示室での会話を控え静かにご鑑賞ください
・レジでは、間隔を空けてお並びいただき、交通系ICカードやクレジットカードでのお支払いにご協力をお願いいたします
・万が一、お客様やスタッフの感染が判明した場合には、速やかに当館ホームページにてお知らせいたします。お客様におかれましては、ご自身で来館日時を記録ください。

アクセス・基本情報

<文=相川真由美>
※掲載されている情報は公開日のもので、最新の情報とは限りません。最新情報は必ず公式サイトでご確認ください。

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